-ハン-

「帰るか」

「うん」


少しずつ冷えてきた秋空の下、犬夜叉とかごめは二人並んで歩む。


「また、来るね。




桔梗」



この二人は今日、桔梗の墓参りに来ていた。








かごめが3年ぶりに戦国時代に戻ってきてから半年経った。

今はもう秋。

春、夏を忙しく過ごしていた二人にとっては今が今までで一番落ち着いて過ごしていると実感していた。



一方世間は実りの秋。

村の多くの者にとっては刈り入れ時であると同時に、市場では多くの食べ物が集まるので買い入れ時でもある。


犬夜叉とかごめは落ち着いて過ごしているとはいえそれは気持ちの方であり、生活の方は以前より少し忙しかった。

犬夜叉はほぼ毎日のように仕事に行く。

村での仕事では主に収穫の手伝い、そしてそれがない日は依頼された妖怪退治に弥勒と共に出かける。

かごめはたいてい村で楓のもとで手伝いをしているが、最近は刈り入れをする村人の手当てや食糧を運ぶなど、応援にかけつけることもあった。



今日はそんな毎日の中でもめずらしく二人とも休みをとれたので、昼下がりに散歩をしていたのだった。

その途中で、かごめの要望で桔梗の墓参りに寄った。



その帰り、二人は弥勒と珊瑚夫婦と出会う。







「おぉこれはお二方」

「弥勒様、珊瑚ちゃん」


そして弥勒の両脇には双子の子供がいた。珊瑚の背には赤子が背負われている。



「どっか出かけていたの?」

「おみせー」

「隣の町で六斉市やっててね。皆で行ってきたのさ」



六斉市って、定期市のことだったわよね。

かごめは頭の中から昔覚えた知識を引っ張り出す。



「やはり今の時期は魚も食べたいでしょう。他にも色々と置いてありましたよ。

子供たちに着せてやりたい布もいくつかあったんですがねぇ、やはり高いものが多くでしたね」



そうは言っているものの、法師の腕には何反もの布を抱えている。



「あとこれー、へんなもんー」



双子の一人が自分の顔と同じくらいの大きさの箱を頭上に掲げた。



「なぁに、これ」

「“コーロー”」

「「“コーロ”?」」



犬夜叉とかごめは二人声をはもらせながら問う。



「香を炊くのにいる器です。香りの“香”に炉端の“炉”と書いて“香炉”と読みます」

「なんでそんな物を?」

「買い出しをしている途中にこの子達がいかにも怪しげな古道具屋を見つけましてね、これに目をつけたんです。

そしたら、その店屋の主人がこれを持っていっていいと言われましてね、只で。」

「あたしは遠慮したんだけどね、法師様が貰っておこうって言ってね」

「何か曰くつきかもしれません。それが他の者の手に渡るよりも、この手に慣れてる者が取り扱った方がいいと思いまして」


「妖気は感じられないが、微かな匂いを感じる。中に何か入っているのか?」

「これ、見てもいい?」

「えぇ」



かごめは双子の手にある箱の蓋を開けた。

中には箱と同じくらいの薄汚い香炉が入っていた。かごめはその香炉の蓋を開けてみた。



「何か入ってる」

「匂いの元はこれだな」


香炉の中には焦げた木のくずのようなものが入っていた。



「そういえばあのご主人、前に使われてたままの物だって言ってたよね」

「じゃあおそらく、この中の物は香木の燃え殻なのでしょうね」

「これ、どうするんだ?」

「帰ってから一度調べてみます。楓様にも見てもらいましょう。

これがもしも曰くつきの物であれば、すぐに処分するつもりです」



「これーすてちゃうのー?」

「やあだー!」


双子が弥勒に抗議する。

弥勒は二人に、これが危ないものだったら自分が危ない目にあうかもしれないということを説明するが、

その説明はこの二人には通らないようだった。



「あたしたちが見つけたのー!」

「こっしょりすてちゃったら、ちちうえきやいになっちゃうかやねー!」



そして双子は自分の家の方へ駆けて行った。



「“ちちうえきらいになっちゃうからね”だってさ、法師様」

「とほほ…早くも娘に嫌われてしまいました…」

「ま、捨てると決まったわけじゃねぇだろ。調べてもダメだったら潔く諦めな」

「そっそうよ、まだこれが曰くつきだと決まったわけじゃないわ。元気出して、弥勒様!」



ずーんと沈んでいる弥勒に―彼のは励ましといえるべきものなのかどうかは定かではないが―二人は励ました。






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その様子を影で見ているものが一人。


「くそ、あの若造。勘がいいな…どうする。」

「おい、きさま何者じゃ」

「!」


後ろを振り返ると、そこには―


一匹の子狐妖怪がいた。