痕-ゴン-
一筋のそれが頬をゆっくりとつたう。
…もしかして。
かごめはこの状況を理解した。
犬夜叉はあれを使ったのかもしれない。
あれが、危ないものだったのかもしれない。
「犬、夜叉」
しかし、返事が返ってこない。
「犬夜叉?」
俯いたまま、目をとじている。
「犬夜叉!」
犬夜叉の傍に寄って彼を揺り動かす。
「ねぇ、どうしたの?起きて!」
そこで、犬夜叉ははっと目を覚ました。
「か、ごめ…?」
「そうよ、大丈夫なの?」
「…ねぇ」
「え?」
犬夜叉があまりにも小さな声で言うものだから、聞こえなかった。
「すま、ねぇ…」
「犬夜叉…」
かごめは何か言おうとしたが、何も言えなかった。
なぜ、あれを使ったのか。何のために?
何に対してあやまったの?
…なぜ、こんなにも悲しい声であやまるの?
あなたの言葉で説明してほしい。
でも今はそんなことよりも、ただ…
未だに表情が見えない彼にそっと近づいて、かごめは後ろから優しく彼を抱きしめた。
そこで、かごめは犬夜叉が泣いている様な気がした。
泣いてはなくても、今すごく悲しんでいるような気がする。
「犬夜叉…」
「か、ごめ…」
「大丈夫よ…」
そのまましばらくそうして時間だけが過ぎていく。
とりあえず今は彼の傍で彼が落ち着くのを待つ。
私がいるよ、だから悲しまないで。
私がここにいるのを感じて…
そしてかごめの頬にも一筋の涙がつたう。